パネルディスカッション 「ウイルス肝炎治療戦略の今後の展望」より
抗ウイルス療法は、新薬の登場によってわが国でも世界標準の治療が可能となった。C型慢性肝炎治療においては、ぺグインターフェロンアルファ2b(PEG-IFNα-2b)/リバビリン(RBV)併用療法によりジェノタイプ1かつ高ウイルス量の難治例に対して効果が期待されるようになり、完治および肝発癌の抑制を視野に入れた治療が行われている。
本パネルディスカッションでは、ウイルス肝炎に対する新たな治療法などの研究報告が行われたが、ここではC型慢性肝炎に対する治療戦略、特にPEG-IFN/RBV併用療法に関する発表の一部を紹介する。
C型慢性肝炎においてジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例に対するウイルス学的著効(SVR)率の向上が望まれるのは、従来のIFN治療が奏効し難く発癌率が高かったからにほかならない。武蔵野赤十字病院消化器科の朝比奈靖浩氏らは、こうした難治例に対するPEG-IFNα-2b/RBV併用療法の薬理効果と発癌・予後に与える影響を検討した。
PEG-IFNα-2b/RBV併用48週投与を行ったジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例15例において、PEG-IFNα-2b、RBVの血中薬物動態とHCV dynamics、IFN誘導遺伝子(ISG)出現の関連を検討した結果、従来型IFN/RBV併用療法とは異なりHCV dynamicsの第2相(24時間〜2週)、第3相(2週以降)でRBV蓄積とIFN濃度が保たれており、これによりISG発現が維持されることでHCVが抑制されると考えられた。
一方、同施設におけるジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例に対するSVR率は、PEG-IFNα-2b/RBV併用48週投与(49例)55.1%、従来型IFN/RBV併用24週投与(255例)18.8%、IFN単独24週投与(404例)22.5%であった。なお、IFN単独療法によりSVRが得られた症例の5年、10年の累積発癌率はそれぞれ3.4%、11%であった。PEG-IFNα-2b/RBV併用療法での累積発癌率はまだ明らかではないが、SVR率が高率であるなどの知見をもとに、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例の発癌率はIFN単独療法より30%以上低下する可能性があると考えられた。
朝比奈氏は「薬理特性が良好なPEG-IFNα-2b/RBV併用療法による治療介入で難治例における遠隔期の発癌率の低下が期待されるが、高齢者ではSVR率が低く発癌率が高いことから、治療方針の決定には慎重を要する」と指摘した。
従来、いわゆる無症候性HCVキャリア(ALT持続正常HCVキャリア)に対するIFN療法はSVR率が低く、むしろALT値を上昇させるとの懸念から行うべきでないとされてきた。しかし、Zeuzemらはジェノタイプ1のALT正常例に対するPEG-IFN/RBV併用48週投与のSVR率は、ALT異常例においてと同様に40%が得られたと報告した。
現在、多くの施設では健常者のALT正常値を40IU/L以下としているが、わが国ではHCVキャリアの25%に当たる40〜50万人がこれに該当し、またC型肝硬変患者の5〜10%がALT40IU/L以下と報告されていることから、ALT正常値の見直しが議論されている。ちなみに、6,835例の献血者を対象としたイタリアの研究報告(2000年)では、ALT正常値を男性30IU/L以下、女性19IU/L以下とした。
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器病態制御学の岡上 武氏らは、血清ALT30IU/L以下が1年以上持続(3回以上測定)し、かつ血小板(PLT)15×104 /μL以下のHCVキャリアを「ALT持続正常HCVキャリア」と定義し、肝生検を施行した129例を対象に、病期の進展度と予後を明らかにするとともに、発癌抑制を目的とした抗ウイルス療法の適応の可否を検討した。
その結果、この定義によるALT持続正常HCVキャリアの90%以上に軽度の慢性肝炎の所見が認められた。
また、5年以上経過観察(平均観察期間8.5年)を行った69例のALTを検討した結果、ALT持続正常10例(14%)、ALT一過性異常39例(57%)、ALT持続異常20例(29%)であった。複数回の肝生検を施行したALT持続正常5例、ALT一過性異常16例、ALT持続異常14例について組織学的経過観察を行った結果、それぞれのうち2例、5例、6例に肝線維化ステージが1ランク上昇し、残り21例は不変であった。
このように、5年以上の経過観察では約30%のALT持続正常HCVキャリアがALT持続異常となった。
これらの結果から、ALT30IU/L以下が1年以上持続し、PLT15×104/μL以下を示すALT持続正常HCVキャリアについては、経過観察後に年齢、病期、炎症の程度を加味して抗ウイルス療法の適応の可否を決定することが望ましいと考えられた。その際の薬剤選択について、岡上氏は「ジェノタイプ1症例に対してはPEG-IFNα-2b/RBV併用48週投与を、ジェノタイプ2a、2b症例には従来型IFN/RBV併用24週投与またはIFN単独療法を選択する」との考え方を示した。
成人の肝硬変に対して生体部分肝移植が保険適用となり、肝移植を含めたウイルス肝炎の治療体系の確立が急務である。しかし、肝移植を希望して移植施設に紹介された時点ですでに肝移植の至適時期を逸脱している患者も少なくなく、移植時期を含めた適応の検討が必要である。また、肝移植後のウイルス肝炎の再発は長期予後を悪化させる要因となっており、移植後の肝炎再発予防策の確立が望まれる。
大阪大学大学院医学系研究科病態制御外科学の堂野恵三氏らは、1998年2月から2005年5月までに同施設が経験した成人生体部分肝移植53例を対象に、肝移植の適応時期と肝炎再発予防策を検討した。成人肝移植レシピエントの原因疾患は53例中29例がウイルス性肝硬変(C型肝炎14例、B型肝炎15例)であった。肝細胞癌はC型肝炎、B型肝炎ともに8例にみられ、ウイルス肝炎が肝硬変、肝細胞癌に移行しやすいことがうかがえた。肝移植後の予後は術前のMELD(Model for End-stage Liver Disease)スコアによって影響を受け、ウイルス肝炎の待機症例においては非代償期早期のMELDスコア15〜25点で移植することが望ましいという。
B型肝炎症例の移植後の肝炎再発予防としては術前1カ月からラミブジンと抗HBs抗体の投与を行っており、1例を除いて耐性株の出現、肝炎再発を認めなかった。一方、C型肝炎症例の肝炎再発予防としては、移植後早期からPEG-IFN/RBV併用療法を開始し、末梢血HCV RNAの陰性化を認めたのち、さらに6カ月継続して中止した。これにより、生存例の肝炎再発は2例のみであった。
堂野氏は「C型肝炎症例の生体部分肝移植後の肝炎再発予防には少量のPEG-IFN/RBV併用療法によって可能だが、今後はSVRを目指したプロトコールの確立が課題となるであろう」と指摘した。


