シンポジウム「高齢者C型慢性肝疾患のより良い治療と管理に向けて」より
わが国でC型慢性肝炎患者の高齢化が進んでいる。C型肝炎ウイルス(HCV)新規感染者の激減や人口全体の高齢化がおもな原因とされ、今後ますます顕著になっていくものと見られる。わが国では昨年末、難治性C型慢性肝炎に対する持続性インターフェロン(IFN)製剤のペグインターフェロンα-2b(PEG-IFNα-2b)とリバビリン(RBV)の48週間投与が保険適用となり、治療レベルは欧米の水準にようやく追いついたが、患者の高齢化という状況を踏まえ、わが国独自の戦略も必要になろう。本シンポジウムでは、そうした治療戦略を考えていく上で重要な、高齢者C型慢性肝炎の治療に関する最新の研究成果が報告された。
高齢のC型慢性肝炎では、IFN療法を行うべきか否か迷うことが多い。その適否を簡便に判断できる指標があると便利だ。虎の門病院肝臓センターの池田健次氏らは、60歳以上のC型慢性肝炎患者の自然経過とIFN治療適応について、初診時の血小板数に注目して検討した。
IFN療法を行うべきか否か、特に迷うのは、初診時に60歳以上で、超音波検査または肝生検で肝硬変が認められず、かつ血小板数が15万/mm3以上あるといった症例である。池田氏らがこうした症例の長期予後を調べたところ、IFN療法を行わなくても、観察開始から15年目までは同年代の日本人男女とほぼ同じ生存率(平均余命)が得られた。しかし、15年以降は生存率が低下し、平均寿命に達しない症例が多数認められた。死因は死亡時期にかかわらず、肝細胞癌が最も多かった。
次に、IFN療法を行った症例も含めて予後を検討すると、初診時血小板数15万/mm3未満の高齢者では、IFN療法が肝細胞癌の発癌率低下および生存率向上に寄与する独立因子になることがわかった。この結果から、池田氏は「血小板数15万/mm3未満の高齢C型慢性肝炎は重要な治療対象になる」と示唆した。なお、15万/mm3以上の症例では発癌率低下、生存率向上に対するIFN療法の寄与は弱まったが、ウイルス学的著効(SVR)、生化学的著効(BR)が達成できれば生存率が向上した。
実際に高齢のC型慢性肝炎患者にIFN療法を行うと、どの程度の抗ウイルス効果が得られるのか。
名古屋大学大学院医学系研究科病態修復内科学の本多隆氏らは、IFN/RBV併用療法を行った高ウイルス量の220例における治療成績を60歳未満154例(70%)と60歳以上66例(30%)に分けて検討した。RBV中止率はそれぞれ21%、33%と、60歳以上群で有意に高かったが、SVR率はジェノタイプ1で30%、28%、ジェノタイプ2で84%、83%と、いずれの病型でも年齢による差は見られなかった。多変量解析でも、年齢はSVRに関与せず、ジェノタイプ2とウイルス量がSVRに寄与する因子だった。
さらに、60歳以上のIFN/RBV併用例とIFN単独例で治療成績を比較したところ、SVR率はジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例でIFN/RBV併用群28%、IFN単独群7%、ジェノタイプ2でそれぞれ83%、23%と、いずれの病型でもIFN/RBV併用群が有意に高かった。
大阪大学大学院医学系研究科分子制御治療学の平松直樹氏らも、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例ではIFN/RBV併用療法の高齢者に対する治療効果が低いことを示した。対象はIFN/RBV併用療法を行ったC型慢性肝炎326例で、60歳未満196例、60〜64歳64例、65〜75歳66例。年齢別、病型別にSVR率を検討すると、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量以外では各年齢群とも約85%と高かったが、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量におけるSVR率は、全体28%、60歳未満34%、60歳以上16%で、60歳以上が60歳未満に比べ有意(p=0.02)に低かった。
IFN/RBV中止率は60歳未満11%、60〜64歳20%、65歳以上29%と、年齢とともに有意(p<0.05、p<0.001 vs 60歳未満)に高くなった。中止の原因は、60歳以上では貧血が61%を占め、60歳未満との間に有意差が認められた。また、RBV中止・減量例では治療開始2週後におけるヘモグロビン(Hb)低下が顕著で、この時点でのHb低下(2g/dL以上の低下)がRBV減量の1つの指標になり得ると考えられたという。
IFN療法の発癌抑制効果については、武蔵野赤十字病院消化器科の朝比奈靖浩氏らが報告。「ウイルス排除がもたらす発癌抑制効果は、高齢者よりも非高齢者において顕著だった」と述べた。
PEG-IFN/RBV併用を含むIFN療法を行った、65歳未満1,251例、65歳以上370例で治療後の累積発癌率を比較したところ、10年でそれぞれ9%、23%と、65歳以上群で有意(p<0.0001)に高かった。多変量解析を行うと、年齢がIFN治療後の発癌に最も強く関与する因子であることが示された。さらに、ウイルス排除によって得られる発癌抑制効果を比較すると、SVR例の累積発癌率は65歳未満では3年、5年、10年いずれも2%で、2%、4%、12%と増大した非SVR例に比べ、有意(p<0.0001)な発癌抑制効果が認められた。これに対して65歳以上では、非SVR例で累積発癌率が6%、11%、24%と増大したが、SVR例でも5%、10%、15%と増大が見られ、有意な発癌抑制効果は認められなかった。ただし、PEG-IFN/RBV併用療法ではより高い抗ウイルス効果が得られており、そのことが高齢者における発癌率低下につながるか、今後の検討が待たれるとしている。
IFN/RBV併用療法による抗ウイルス効果が高齢者で低い理由の1つは、RBV血中濃度の上がりすぎに伴う副作用により、RBV減量やIFN/RBV併用療法中止が高率に起こるためと見られている。札幌厚生病院消化器科の狩野吉康氏らは、RBVの適切な投与量を全身クリアランス(CL/F)に基づいて設定する方法の有用性を検討した。
CL/Fは、薬物が体内から消失する速度を、単位時間当たりに体内から消去される量の薬物を含んだ体液(一般には血液)の容積で表す。年齢、体重、性別、血清クレアチニン値から一定の式で求めるが、体重と年齢のみによる簡易式(0.244×体重−0.22×年齢+8.02)でも算出できる。狩野氏らは昨年、CL/FがRBV減量、IFN/RBV併用療法中止の唯一の影響因子であること、CL/Fは治療4週目のRBV血中濃度と相関することを報告している。
減量、中止は治療4週目のRBV血中濃度が2,500ng/mLを超えると高率になり、その傾向は高齢者で顕著だった。そこで、高齢者のRBV投与量をCL/Fに基づき、4週目の血中濃度が2,000〜2,500ng/mLに入るよう設定(表)。ジェノタイプ1の22例(平均年齢64歳)でprospective studyを開始した。現在のところ、RBV減量率は23%と低く、12週におけるHCV RNA陰性化率は55%で、CL/FベースのRBV投与量設定が副作用、効果の両面で有用と考えられるとしている。
表 高齢者におけるリバビリン初回投与量(簡易版)



