林 :最近、ALTの正常値を見直す必要があるという意見がありますが、その点はいかがですか。
吉岡:一般に本邦の多くの施設では、ALTの正常範囲を35〜40IU/L以下としていますが、最近、イタリアで大規模な検討が行われ、男性では30IU/L以下、女性では20IU/L以下を正常値とするのが望ましいという結果が得られています。したがって、本邦でも検討する必要があります。IFN治療によって治癒した症例では、男性でも20IU/L以下になることが多いので、男性では30IU/L以下、女性では20IU/L以下を正常値と考えるのが妥当だと思われます。
林 :おそらく、20IU/L以下が正常値であるという意見には異論を唱える方はおられないと思いますが、正常値の範囲を30IU/L以下にするか、35IU/L以下にするかは議論が分かれると思います。その点いかがでしょうか。
熊田:我々は治療介入していないALT持続正常例を5〜10年にわたって経過観察し、その間の累積異常出現率を検討しています。対象は経過観察開始時ALTが正常値(ALT35IU/L以下)であった547例です。その結果、5年間に57.5%が異常値を示し、10年間では63.3%でした。そこで、ALT値を10IU/L以下の群、10〜20IU/L群、20〜30IU/L群、30〜35IU/L群の4群に分けて検討したところ、20IU/L以下の2群では累積異常出現率は約40〜50%とほぼ同等でしたが、20IU/Lを超えると異常出現率は高くなり、30〜35IU/L群における5年間の累積異常出現率は91.8%でした(図11)。この結果から考えますと、ALT20IU/L以下を正常値とするのが妥当だと思われます。
図11 初回ALT値と異常出現時期

大垣市民病院
林 :ALT値が20IU/Lを超えていると、その後に肝機能が異常を示す確率はかなり高いということですね。
林 :2005年12月より、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法は「ジェノタイプ1かつ高ウイルス量」以外の症例(初回治療低ウイルス量症例を除く)も治療対象になりましたが、ご意見をお願いします。
吉岡:ジェノタイプ2における治療効果は約90%と非常に優れていることが明らかになりました。また、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例においては若いほどSVRが得られやすく、高齢者になると治療が辛くなりますし、治療効果も落ちますので、ALT持続正常例を含めて、できれば早めに治療をしたほうがいいと思います。もう少し待つともっと楽な治療薬が出てくると期待している患者さんもいますが、本邦で使えるようになるには10年以上かかると思われますので、その意味でも早めに治療したほうがよいでしょう。問題は高齢者でALT持続正常例にPEG-IFNα-2b/RBV併用療法を行うか、という点です。
熊田:エビデンスから考えると、若いうちに治療したほうがよいことは明らかです。一方、高齢者に対しては、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法でウイルスを完全に排除するか、あるいは肝癌の発症を予防するという視点から片野先生が指摘されたAASLDのガイドラインで勧告されている通り、個々の患者さんの体力、副作用の発現頻度、肝病変の進行程度など、総合的に判断すべきだと思います。
林 :冒頭でも申し上げたように、本邦でIFN治療が始まってから14年経ちますが一向に肝癌の死亡率は減少していません。また、節目検診が始まって4年経ちますが、その受診率はまだあまり高くありません。そして、節目検診でC型肝炎の抗体が陽性であることがわかっても適切な精密検査が行われておらず、さらにウイルスの陽性が確認されても、ALT値が正常なために放置されている症例が非常に多いのです。これは大きな問題であり、いかに節目検診の受診者を増やすか、検診でみつかったALT正常例をどのように治療するかは今後の課題です。その点いかがですか。
吉岡:まず多くの人にC型肝炎についてよく知ってもらうことが大切だと思います。またALT正常例全てに肝生検を行うことは不可能ですが、先に指摘されたFibro Scanなどを使って非侵襲的に肝の状態を評価し、予後を含めて患者さんにわかりやすく説明することも重要だと思います。
熊田:肝臓の病気は自覚症状がないので日常生活に支障はありません。一方、IFNの副作用の情報のみが独り歩きしているため、受診を躊躇している患者さんも多いと思われます。その意味で、患者さんの教育が最も重要だと思います。
片野:患者さんを啓発することとともに、開業医の先生方にも最新のエビデンスを伝え、ALT正常例に対する考え方を変えていただくことが必要です。今回厚生労働省の研究班のガイドラインができたこともあり、ALT値が正常化しているからといって経過観察されている症例でも一度は肝臓の専門医に診てもらうことの大切さを広めていく必要もあります。
林 :本日はありがとうございました。


