この3月、C型慢性肝炎に対する「治療ガイドライン2006」が発表された。また、今まで治療方針が示されていなかった肝機能正常症例に対する治療ガイドラインも初めて発表された。そこで、ガイドラインの作成に携われた先生方を招き、これからの日常診療にこれらのガイドラインをいかに活かしていくべきか、ご討論いただいた。司会は大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学教授の林紀夫氏である。
林 : 欧米に遅れること約2年、本邦においてもペグインターフェロンアルファ2b(PEG-IFNα-2b;商品名ペグイントロン®)とリバビリン(RBV;商品名レベトール®)の48週併用療法が2004年12月に保険適用となり、昨年は多くの患者さんがこの併用療法を受け、本邦においても第1選択の治療として定着してきたと思っています。また、昨年12月にはPEG-IFNα-2b/RBV併用療法の適応が拡大され、初回治療ではジェノタイプにかかわらず高ウイルス量症例に対して、また再治療ではすべての症例にPEG-IFNα-2b/RBV併用療法が行えるようになりました。そこで本日は、先ごろ発表された「治療ガイドライン2006」を紹介していただくと共に、肝機能正常のC型肝炎ウイルス(HCV)キャリアに対する治療指針、また、現在行われている治療の有効率をさらに高める方法について、ご意見を伺います。
ご存じのように、厚生労働省の治療の標準化に関する臨床研究班は、毎年、C型慢性肝炎治療ガイドラインを発表していますが、その主旨をお聞かせください。
熊田: C型肝炎は慢性肝炎から肝硬変、肝癌へと進展し、本邦における肝癌死は未だに減っていません。そこで厚生労働省は肝癌撲滅を目的とした研究班を平成14年度から組織しました。その1つが、C型慢性肝炎に対する標準的治療の普及を目的とした研究班で、毎年、その時点におけるベストの治療方法を治療ガイドラインとして具体的に示しています。
林 : 本来、治療ガイドラインは確かなエビデンスに基づいて作成するものですが、C型慢性肝炎の治療は年々大きく変化しているため、エビデンスを基につくると、少し遅れた治療を示すことになります。その点が、C型慢性肝炎の治療ガイドライン作成の難しい点ですね。
岡上: おっしゃるとおりで、エビデンスに基づく治療を示すと、2、3年遅れた治療を推奨することになります。そこで、現時点できちんと検証されているデータを集めて、毎年ガイドラインを示すことが最適な方法だと思います。
林 : 今回、C型慢性肝炎の治療ガイドラインは、欧米での成績と本邦で行われた全国ベースのトライアルの成績がベースになっています。例えば、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例に対するPEG-IFNα-2b/RBV併用療法(48週間)のトライアルとしては、臨床開発試験の成績の他に我々が行った臨床薬理試験がありますが、その成績をみると、投与終了時のウイルス陰性化率(SVR率)は81%、投与終了後24週目のウイルス陰性化率は57.8%で、約60%の症例が治癒しています(図1)。
一方、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量以外の症例(others)に対するPEG-IFNα-2b/RBV併用療法(24週間)の有効性も臨床開発試験で検討されています。そこで、その成績※について解説してください。
図1 ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例における
PEG-IFNα-2b/RBV併用療法のSVR率

※:低ウイルス量初回治療の症例を除く。
泉 : othersに対する臨床開発試験は、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法(24週間)の有用性がIFNα-2b/RBV併用療法に劣らないこと(非劣勢)を検証するもので、全国の20施設で行われました。その結果、SVR率はIFNα-2b/RBV併用療法で75.5%、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法で88.9%と、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法のほうが約13%高いという成績でした(図2)。また、肝の線維化が進展するとIFNα-2b/RBV併用療法ではSVR率が低下しますが、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法では差がありませんでした。つまり、肝の線維化の程度に関係なく高い有効性が認められたわけです。
図2 ジェノタイプ1かつ高ウイルス量以外の症例における
PEG-IFNα-2b/RBV併用療法のSVR率

注意:治験結果のn数より、低ウイルス量初回治療の症例を除いている。
林 : この成績をどのように評価されますか。
熊田: 週1回の治療を半年間続けるだけで約90%の患者さんが治癒するわけですから、自覚症状がない若い患者さんも早めに治療を受けようという気持ちになると思います。実際、今まで待っていた患者さんが一斉に治療を始めています。
林 :それでは、以上のようなバックグラウンドを基に作成された最新の「C型慢性肝炎の治療ガイドライン2006」について解説してください。
熊田:すでに指摘されているように、臨床開発試験および臨床薬理試験で非常に良い成績が得られていますので、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例に対しては、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法(48週間)を第1選択に推奨しています。また、ジェノタイプ2の治療もPEG-IFNα-2b/RBV併用療法(24週間)が基本となります。初回治療の低ウイルス量症例に関しては、IFNあるいはPEG-IFNα-2aの単独療法(8〜24週間)を推奨しています(表1)。一方、再治療の低ウイルス量症例に関してはすべての症例にPEG-IFNα-2b/RBV併用療法を推奨しています(表2)。
表1 C型慢性肝炎の治療ガイドライン2006−初回投与

表2 C型慢性肝炎の治療ガイドライン2006−再投与

なお、再治療に当たっては「初回治療での無効要因を検討して、治癒目的の治療か、進展予防(発癌予防)の少量長期療法を選択すべきである」というコメントをつけています。さらに、治療法の選択は個々の患者さんの状態によって異なりますので、画一化されないために補足説明もつけています。例えば、初回投与例でPEG-IFNα-2b/RBV併用療法が適応でない症例には、ジェノタイプ1ではIFNの長期療法(2年間)、ジェノタイプ2ではIFNの24〜48週間治療を考慮します。また、IFN療法中にHCV RNAの陰性化が得られなかった症例では、肝庇護剤などを含め可能性のある治療をすべて行って、肝機能の正常化あるいは発癌予防を目指した治療を検討することを提唱しています。
林 :欧米では、ジェノタイプ2の低ウイルス量症例に対する治療期間はもっと短くできる、という議論がありますが、その点はいかがですか。
熊田: 実際、欧米ではジェノタイプ2aは12週間の治療で十分であるという成績が報告されていますが、本邦ではまだ確かなエビデンスはありません。しかし、IFN単独療法の成績をみますと、ジェノタイプ2aと2bでは少し差があり、2bのSVR率は約10%低いので、2aの低ウイルス量症例は8〜12週間の治療も考えられます。そこでガイドラインでは、弾力性をもたせるために初回治療の治療期間を8〜24週間としましたが、この点については早急にきちんとした検討を行いたいと考えています。
泉 :確かに、治療開始2週時点でウイルスが消失した症例は、治療期間を16週間くらいまで短くできる可能性は高いと思います。しかし「どうしても治したいので、24週間きちんと治療したい」という患者さんが多いのが現状です。
林 :再治療についてはいかがですか。
泉 :従来の治療で治癒しなかった患者さん、特に再燃例ではPEG-IFNα-2b/RBV併用療法で治癒する可能性が高いので、すべての症例にPEG-IFNα-2b/RBV併用療法を推奨しているのは、非常に妥当だと思います。
林 :今後、ジェノタイプ2かつ高ウイルス量症例では、初回治療でPEG-IFNα-2b/RBV併用療法を行っても治癒しなかった症例がでてきますが、そのような症例に対してはどのような再治療が望ましいとお考えですか。
熊田:「なぜ治癒しなかったか」を検討することが非常に重要で、例えばいったんはウイルスが消失したが、血球減少などのRBVの副作用で併用療法を持続できなかった症例には、IFN単独長期療法が選択肢になります。一方、再燃例にはPEG-IFNα-2b/RBV併用療法の48週間投与を考慮すべきです。治療期間はSVR率に相当影響していますので、再燃例に対しては再治療の期間を1.5〜2倍にして対応すべきだというのが私の持論です。
林 :治療期間については、自治体によって対応が異なっていますが、その点はいかがでしょう。
熊田:今回の専門家会議の議論でも、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例に対するPEG-IFNα-2b/RBV併用療法の治療期間は48週間を「標準投与期間」としていますが、基本的に期間を限定しているわけではありません。実際、厚生労働省も「48週間以上併用療法を行ってはいけない」とは言っておりません。ただ、各地方自治体で対応が異なっていますので、行政にきちんと説明することが我々肝臓専門医の重要な務めだと考えています。



