座談会
林 : 現在、臨床の場で大きな問題となっているのが、従来「無症候性キャリア」と呼ばれていた、肝機能正常のC型慢性肝炎患者さんに対する治療です。欧米では、こうした症例に対しても積極的に治療を行う傾向がみられますが、本邦では今まできちんとした治療方針が示されていませんでした。しかし今回「HCV RNA陽性、ALT正常症例の抗ウイルス治療ガイドライン」が発表されました。そこでまず、このガイドラインの背景について解説してください。
熊田:岡上先生を中心として、肝機能正常例のデータをまとめていただきましたが、その背景には、70、80歳代の肝癌患者さんが年々増えているという現状があります。こうした人達の過去をみますと、60歳の頃には肝機能が正常で「もう大丈夫だろう」と思われた患者さん達ですが、その後10〜20年経って肝癌が発生したわけです。こうした傾向は特に女性に多くみられます。つまり、将来のことを考えると、たとえ肝機能が正常でも積極的に治療することが予後を改善することになります。そこで今回、治療ガイドラインを作成したのです。
林 :それでは、このガイドラインの根拠になったデータと実際のガイドラインについて解説してください。
岡上:欧米では20年ほど前から、血清ALT値の正常値を40IU/L以下としています。そこで我々研究班は、ALT値が40IU/L以下でIFN治療を受けた580例を対象に、ALT値が30IU/L以下の症例と31〜40IU/Lの症例に分けて比較検討したところ、両群間に性別と、肝の線維化の程度を反映する血小板数に大きな差が認められました。具体的には、30IU/L以下の症例には女性が多く、ジェノタイプ2の比率がより高く、線維化の程度はF0、F1が多く、31〜40IU/Lの症例には、男性、線維化の程度がF2〜F4、血小板数15万/μL未満の比率が有意に高いことが明らかになりました。
図3 血清ALT値正常C型肝炎患者へのIFN(+RBV)治療効果:SVR率

しかし、両群間に治療効果の差はなく、しかも、従来は「症候性慢性肝炎に比べると無症候性キャリアにおける治療成績は悪い」と言われていましたが、実際にはむしろ良好であることが明らかになりました(図3)。さらに予後については30IU/L以下の群では良好であることが、我々の施設での検討で明らかになっています。そこで、これらのデータを基に作成したのが「HCV RNA陽性、ALT正常症例の抗ウイルス治療ガイドライン」です。
表3 血清ALT値正常C型肝炎症例に対する抗ウイルス治療ガイドライン

遺伝子型、ウイルス量、年齢などを考慮し、通常のC型慢性肝炎治療に準じて、治療法を選択する。
また、ウイルス排除の可能性が高く、副作用の素因が軽度な場合には、通常の慢性肝炎と同様の基準で投与する。
具体的には、血清ALT値が31〜40IU/Lの場合、血小板数が15万/μL未満の症例はほとんどがF2、F3(一部F4)なので通常の慢性肝炎と同じ抗ウイルス療法を行い、血小板数が15万/μL以上の場合でもF2、F3のケースがかなり存在していますので、線維化の程度を調べて発癌リスクが高い場合には積極的に抗ウイルス療法を行います。問題なのは30IU/L以下の症例に対する治療ですが、血小板数が15万/μL以上の場合はF2の割合は約8%なので、基本的に経過観察し、ALT値が異常になった時点で抗ウイルス療法を考慮します。一方、血小板数が15万/μL未満の場合は、F2、F3の可能性が高いので、できれば肝生検により線維化を評価し、F2以上の場合は抗ウイルス療法を考慮することを推奨しています(表3)。
肝機能持続正常例は異常例に比してジェノタイプ2の頻度が高く、ジェノタイプ2はPEG-IFNα-2b/RBV併用療法でほとんどの症例が治癒しますので、「ウイルスに感染している」という患者さんの精神的負担を考慮すると、早めに治療することが望ましいと思われます。そこで「あなたの肝機能あるいは肝組織はそれほど悪くないが、治療をすれば治癒する可能性は80〜90%あります」ときちんと説明することが大切だと思います。
一方、肝機能正常例に対するフォローで問題になるのは、ALTの正常値をいかに定義するかです。すでに述べたように、欧米では40IU/L以下を正常と定義していますが、本邦では施設によってばらつきがあり、25〜50IU/Lまでを正常値としています。また測定法も一定ではないのが現状ですので、早急にコンセンサスを得る必要があります。また、肝機能を単にALT値だけで検討するのではなく、線維化の程度を評価することも非常に重要です。線維化マーカーはいくつかありますが、日常臨床で最も簡便かつ有用なのは血小板数です。
林 :このガイドラインについてご意見がありますか。
泉 :開業医の先生方が最も悩んでいるのが、肝機能が正常の患者さんへの対応です。そういう症例に対しては今までガイドラインがありませんでしたが、今回で治療対象が絞り込めました。ですからこのガイドラインを多くの先生方に知っていただき、「ALT値が正常範囲でも専門医に紹介したほうがいい」ということを速やかに周知していただくことが重要だと思います。
林 :肝臓の非専門医の間では、まだ「無症候性キャリア」という言葉が使われていますが、ALT値が31IU/L以上は治療対象であることを広く啓蒙する必要がありますね。
林 :最後に、ジェノタイプ1かつ高ウイルス量症例の治癒率をいかに高くするかについて、具体的にコメントしてください。
熊田:少なくとも、治療開始12〜24週の間にいったんウイルスが陰性化した症例は、治療期間を72週間に延長したほうが治療効果は高くなると思います。実際私どもは、PEG-IFNα-2b/RBV併用療法が認可される前後に、IFNα-2b/RBV併用療法を24週間、続いてPEG-IFNα-2b/RBV併用療法を48週間行った経験があります。投与終了後12週目の時点で10例中7例(70%)で陰性化が持続し、なかでも投与13週目以降にウイルスが陰性化した症例では7例中5例(71.4%)で陰性化が持続していました(表4)。臨床開発試験における同様の症例に対する著効率は36.2%ですから、ウイルスの陰性化が遅い症例は治療期間を長くすれば有効率はさらに上がると思い、行っているわけです。
表4 PEG-IFNα-2b/RBV併用療法72週投与例の検討

提供:熊田博光氏
岡上:臨床開発試験で明らかになったのは、F3の症例の治癒率が少し悪いことです。そこで我々は、F2以上で12週時点に陰性化した症例には60週間の治療、24週時点で陰性化した症例には72週の治療をすすめています。線維化進展例では著効率が低く、発癌リスクも高いので、治療期間を長くして完治する率を上げることを考慮すべきです。
泉 :高齢者の場合は、副作用で減量あるいは中止するケースが多いので、CL/FでRBVの投与量を計算し、PEG-IFNα-2bの投与量も若干少なめで治療を開始していますが、こうした症例には48週間より長めに治療を行うことが有効率を高めるのではないかと考えています。
熊田:私たちも、65歳以上の高齢者ではRBVの投与量を基準より200mg減量し、白血球数が2,500/mm3以下の症例ではさらにPEG-IFNα-2bの投与量を20μg減量して治療を開始しています。治療開始24週時点でのウイルス陰性化率は臨床開発試験より低いのですが、72週間治療を行えば、最終的な著効率は上がると思います。現在、65例でこの治療方法を行っており、まもなく最終成績が明らかになりますが、今のところ中止例はたった1例ですので期待がもてます。
林 :本日は最新のC型慢性肝炎の「治療ガイドライン2006」を中心にご意見を伺いました。本邦においてもPEG-IFNα-2b/RBV併用療法が定着しつつありますので、このガイドラインを参考にしながら最適な治療が行われることを期待しています。
また、今回、本邦では初めて肝機能持続正常症例に対する治療ガイドラインも発表されましたので、併せて日常診療に活かされることを期待しています。本日はありがとうございました。


